PAM8403を使用したアクティブスピーカー


はじめに

パソコンのディスプレイをワイド型の液晶に買い換えたところ,それまで使っていたPC用のスピーカーが机の上に置けなくなってしまいました.
新しいディスプレイにはスピーカーが内蔵されていましたがひどい音だったので,卓上用の省スペースなスピーカーボックスとそれに使うアンプを自作することにしました.

設計・製作

スピーカーアンプ部

スピーカーアンプとしては,日本橋のデジットで売っていたD級アンプICのPAM8403を使用しました.このICは動作電圧が2.5~5Vで出力が最大2x3W(左右合計6W)ある,D級動作のステレオパワーアンプです.
D級アンプですが,出力にコイルなどを使ったフィルターが不要なフィルターレスタイプなので,少ない外付け部品で動作させることができます.
電源電圧は5Vで動かすことにしました.
回路はデータシートのとおりです.シャットダウンとミュート用端子は今回使用しませんが,内部でプルアップされているので何も接続しません.
このICのパッケージはSOPで普通のユニバーサル基板は使えませんが,わざわざ変換基板を使うのは面倒だったので1.27mmピッチの両面ユニバーサル基板を使って実装しました.
また,信号入力用(0.47uFのフィルムコンデンサ)以外の電源デカップリング用コンデンサは全てチップ部品を使いました.

ヘッドフォンアンプ部

今回のアンプはスピーカーへ出力するだけではなくヘッドフォンへも出力できるようにしました.
しかしながら,使用したアンプICのPAM8403は出力がBTL構成のようにスピーカーごとに独立しているため,そのままではグラウンドを共通にしないといけないヘッドフォンには接続できません.
BTL構成であれば,出力電圧が半分になるのを我慢して,各チャンネルの片方の出力をコンデンサを通して出力すればGNDを共通にできるのではないかと最初は考えましたが,実際にやってみたところ音が大きく歪んで失敗でした.こちらのD級アンプに関する解説などを見てみるとフィルタレスD級アンプの出力は単純なBTL構成ではなくスピーカー(コイル)をつなぐことを前提とした回路となっているようなので,そのためにうまくいかないのかもしれません.
結局,ヘッドフォン用にもう一つ別のアンプを内蔵させることにしました.
ヘッドフォン用のアンプは,デュアルオペアンプICを1つ使ったシンプルな反転型増幅回路としました.ゲインはあまり必要ないと思われるので2倍としています.
オペアンプを使ったヘッドフォンアンプというとChu-Moyアンプと呼ばれるものが有名で,自分も以前製作してみましたが,このタイプのアンプはヘッドフォン出力にオペアンプのオフセット電圧が出る心配があるのと,分圧した電源のインピーダンスを下げるために部品点数が増えることなどを避けたかったので,出力はコンデンサ結合とし,また分圧した電源に対してほとんど電流が流れない反転増幅回路としました.
オペアンプにはNJM4580DDを使用しました.このオペアンプは低ノイズで気に入っていますが,他のオペアンプはこの回路では使えない可能性があります.それは電源電圧から来る問題で,NJM4580の動作電圧は±2Vからなのでこの回路の5Vの電源で動作しますが,他のオペアンプでは動作電圧が大きくて動作しない可能性があります.
ちなみに,回路図でオペアンプの非反転入力に与える電圧を生成しているR6とR7の値が微妙に異なりますが,これは使用したNJM4580の出力できる電圧範囲をオシロで調べたところ,0V側よりも+5V側にやや大きく振ることができるようだったので,少しでも出力の振幅を大きく取れるようにバイアス電圧を2.5Vよりも若干高くしています.
電源電圧が低い(5V)ため,出力を大きくしすぎると出力波形が潰れて音が歪んでしまいますが,効率の良くないヘッドフォンで大きな音で聞こうとしなければ問題にならないと思います.
ヘッドフォンアンプを別の回路としたため,ヘッドフォンを使わない時も電流を消費してエコではありませんが,ヘッドフォンアンプ部の待機時の消費電流は数mA程度とLED並だったので許容範囲だと思います.

スピーカーとケース

スピーカーユニットは,デジットで売られていた9x5cmの楕円型スピーカーを使いました.SHARP製と書かれた8Ω4Wのものです.
エンクロージャーは共振周波数が100Hz弱のバスレフ型として設計しています.ダクトパイプは使いません.100円ショップで買った6mmのMDF板で作りました.
以前スピーカーボックスを作ったときは,糸のこ盤しかなかったため切り口がきれいにならずフライス盤で仕上げましたが,今回は新しく手に入れた卓上丸のこ盤のおかげで簡単に寸法をそろえて部品を切り出すことができました.
エンクロージャー内側の直交する3つの面に薄いフェルトを貼り付けます.

日常的にPCで使うスピーカー用のアンプとして製作するため,いくつか使い勝手を考慮しました.まず音量調節のボリュームにスイッチ付きのものを使用して電源のON/OFFを行えるようにして,さらにヘッドフォン端子を用意してヘッドフォンを差し込んだ場合はスピーカーからではなくヘッドフォンから音が出るようにしました.ささいなことですが,毎日使うものなので大事な点です.
ヘッドフォンのジャックは,6Pのスイッチが内蔵されてヘッドフォンを入れたときと抜いた時に接点が切り替わるものがデジットにあったので,それを使用しました.
普段の工作ではパイロットランプを付けないことが多いのですが,電源の切り忘れを防ぐために取り付けました.赤色では色がきつくて青は最近ありふれているので緑色にしました.
既製品のアクティブスピーカーではスピーカーボックス内にアンプが内蔵されていますが,メンテナンスを容易にするためにアンプ部はスピーカーボックスとは別のケースに入れました.
下の配線図ではスピーカーアンプ部とヘッドフォンアンプ部が同一の基板にあるように見えますが,実際は基板を分けています.

回路図 回路図   配線図 配線図   エンクロージャー エンクロージャー

スピーカーアンプ部の基板(表) スピーカーアンプ部の基板(表)  スピーカーアンプ部の基板(裏) スピーカーアンプ部の基板(裏)
ケースに収めたアンプ部 ケースに収めたアンプ部  スピーカーボックス スピーカーボックス

完成

完成して使ってみましたが満足のいくものができました.
比較の対象が悪いのですが,パソコンのディスプレイに内蔵のスピーカーよりもはるかに良い音です.
またPAM8403はノイズが少なく,以前使っていたスピーカーよりも優れていました.
スピーカーユニットが小さいので音域が十分にあるか心配でしたが,サイズの割には良い音が出ました.音量も,5Vの電源ですが十分出ます.
ヘッドフォンアンプの方も満足のいく音質であり,実用性の高いアクティブスピーカーに仕上がったと思います.

設計で失敗した点としては,スピーカーボックスの入力用の端子としてRCAピンジャックを使用しましたが,接続するピンプラグが案外大きくて予想以上のスペースがスピーカーの背面に必要になったことです.横から出すようにすれば良かったかもしれません.
また,実はスピーカーアンプ部の配線を終えて動作確認をした後,ケースに入れて再び動作確認をしていたところ,PAM8403が故障してPVDD-GND間の抵抗が0Ωとなっていたため,ICを基板からはずして新しいものに付け替えるということがありました.
故障の原因は不明ですが,その時の回路はヘッドフォンジャックを差し込む際に一瞬ICの出力がショートする可能性があるものだったので,それが問題だったのかもしれません.
PAM8403には出力端子のショートに対する保護回路もあるので大丈夫だろうと思っていましたが,保護回路を当てにした回路を書いてはいけないと思います.現在の回路は(PAM8403ではなくオペアンプがつながっていますが)ヘッドフォン出力の前に短絡保護用の100Ωの抵抗を入れています.

参考資料

  1. PAM8403のデータシート

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2010-01-06 ページ作成
(2010-01 製作)
T. Nakagawa