スピーカーアンプとヘッドフォンアンプ


はじめに

しばらく前に自宅のPCを買い換えたのに伴い,PCで音楽を再生するのに使用していたアンプも別のものに変えてみることにしました.
日常的に使うアンプであり,長く使えるものにしたいと思い設計しました.

普段はスピーカーで聴きますが,たまにヘッドフォンを使うことがあるので,スピーカーアンプとヘッドフォンアンプを両方組み込むことにします.
スピーカーアンプには,これまで使ったことがなかったTIのD級アンプICの一つである,TPA3117D2を使います.
ヘッドフォンアンプには,やはりTIのTPA6120A2というICが気になっていたので,これを使ってみます.

設計・製作

電源部

スピーカーアンプとヘッドフォンアンプを両方使う場合に,グランドと負電源の扱いが問題になります.
今回使うICのうち,スピーカーアンプ用ICは単一電源で動きますが,ヘッドフォンアンプICは正負両電源が必要です.入力は共通に扱うので,入力信号のグランドはどちらのアンプでも同じになります.またアンプの電源は,ACアダプタで単電源を供給することにします.
電源がVcc [V]の単電源の場合に両電源の回路を扱う場合は,分圧したVcc/2 [V]を生成してグランドとする方法(仮想グランド)や,DC-DCコンバータを利用して-Vcc [V]を生成して0Vをグランドとする方法などがあります.
最初は,バッファICのLT1010を使用した仮想グランドを試したのですが,動作が不安定でノイズが乗ったりしたので,LTC1144というスイッチドキャパシタ方式の電圧反転ICを使用して負電源を作るようにしました.このICは出力抵抗が少し大きいので,効率の高くないヘッドフォンを使う場合はもう少し出力に余裕のあるものを選んだ方がよいと思います.
LTC1144はBOOSTピンを使用してスイッチング周波数を高くし(電源電圧が12Vの場合約100kHz),可聴帯域のノイズが出ないようにしています.

パイロットランプのLEDは,あまり電化製品に使われているのを見かけない青緑色のもの(L3-G0030-4500)を使いました.しかし十分に電流を流せばきれいな色が出るのですが,パイロットランプとして使うために0.2mA程度(これでも十分明るく光ります)流しただけでは普通の緑色にしか光らずがっかりしました.

回路図 回路図   配線図 配線図  

スピーカーアンプ部

スピーカーアンプでは,はじめに述べたとおりTIのTPA3117D2という15W+15WのD級アンプICを使用します.
電源電圧は8~26Vで比較的自己消費電流も少なく,フィルタレスのため必要な外付け部品の数も少ないのですが,パッケージがQFNなので実装が面倒です.以前作成したアンプの場合と同様に,今回もユニバーサル基板の裏に逆さに貼り付けて,細い銅線やUEWで配線しました.

このICはゲインを選択することができます.過去に自作してきたアンプは比較的高めにゲインを設定したものの,ボリュームを半分以上回すことがほとんど無かったため,今回は控えめの12.1dBに設定することにしました.

回路図と配線図は下図のとおりです.
基本的にデータシートに従っています.フェライトビーズもデータシート中で参照されているものです.コンデンサは電源系統以外はフィルムコンデンサです.

回路図 回路図   配線図 配線図

基板(表)  基板(表)  基板(裏)  基板(裏)  

ヘッドフォンアンプ部

ヘッドフォンアンプには,TPA6120A2を使用します.
ところでこのICのデータシートの冒頭部には,"... The solid design and performance of the TPA6120A2 ensures that music, not the amplifier, is heard."などと,客観的な技術文書らしからぬ表現があります.
スピーカーアンプに使用したTPA3117D2とは異なり,このICはハンダ付けしやすいSOPの形状で,入手性も比較的良いようですが,扱いは少し面倒で安定して動作させるのにやや苦労しました.
データシートには,ICを発振させないための注意事項が色々と書かれています.
最初は甘く考えてリード線を長めにしてラフな配線をしたところ,発振を起こしたので配線をやり直しました.
専用の基板を作るのは面倒だったので,1.27mmピッチの片面ユニバーサル基板の裏に銅箔テープを貼って,できるだけ配線が短くなるようにしました.
なお発振していても音は出ますが,ICが触れないくらい熱くなりました.正常に動作していれば,普通のヘッドフォンを使用する場合若干温かくなる程度なので,ICの放熱パッドを銅箔テープにハンダ付けした以外は,特に放熱対策はしていません.

なおこのICの使い方に関しては,IC自体のデータシートの他に,評価モジュール(TPA6120A2EVM)のデータシートにも参考になる情報が書かれています.
下記の回路図中で,ICの入力ピンは4.3kΩの抵抗を介してグランドに接続していますが,この入力バイアスに関してICのデータシートには書かれていません.
今回作成したアンプは,ヘッドフォンを接続していない時はヘッドフォンアンプの入力が浮いた状態になりますが,このバイアス抵抗がないと出力に大きな電圧が出るため,ジャックを抜き差しする際にヘッドフォンを破壊する可能性があります.
一般的に100mV以上の電圧をヘッドフォンにかけるとボイスコイルにダメージを与えると言われるので,入力がフローティングの場合でも出力オフセットがその値を超えないように抵抗の値が選択されています.

アンプのゲインは,スピーカーアンプと同様に少し控えめにして2倍としました.

回路図 回路図   配線図 配線図

基板(表)  基板(表)  基板(裏)  基板(裏)

各モジュールの接続とケースへの組み込み

電源,スピーカーアンプ,ヘッドフォンアンプの各モジュールを接続して,ケースに組み込みます.
今回はケースには,タカチのYM-90を使用しました.このケースは幅は比較的ありますが,高さが20mmと低いので小さいつまみを使う必要があり,基板上の部品の高さもぎりぎりであまり余裕がありません.
ところでスピーカー出力端子にはRCAピンジャックを使っています.ライン入力と紛らわしいので普通は使わないと思いますが,省スペースで便利なので小型のケースに組み込む際によく使っています.

スピーカーアンプとヘッドフォンアンプを組み込む場合,2つのアンプを切り替える必要があります.今回は両方のアンプに常に電源を供給して,スイッチ付きのヘッドフォンジャック(2回路3接点のスイッチがミニステレオプラグの挿入によりon/offされるもの.日本橋のデジットや秋葉原の鈴商にありました)でボリューム(10kΩA型2連)からの出力を各アンプの入力に切り替えて接続するようにしました.

完成したアンプ(前) ケース内配線

完成したアンプ(前) ケース前面   完成したアンプ(後) ケース背面  

完成

完成してから数日間使っています.
今のところ不満もなく,当分はアンプを新調しようと思わなくて済むと思います.むしろ音源の方に不満が出てきました.
特にヘッドフォンアンプは澄んだ音で満足しています.
一つ設計上失敗だったのは,現在使っているスピーカーとヘッドフォンの効率からすると,スピーカーアンプのゲインはもう少し高めに,ヘッドフォンアンプのゲインは低めにした方がよかったかもしれません.
最近のD級アンプICは,データシートのとおりに少数の部品を付けて組み立てれば性能の高いアンプが簡単にできてしまい便利ですが,自作するおもしろさは少し減っているのかなという気もします.


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2014-04-16 ページ作成
(2014-04 製作)
T. Nakagawa